国連自由権規約委員会は日本政府に何を求めたか=死刑・代用監獄・慰安婦・秘密保護法・ヘイトスピーチ・技能実習生・福島原発事故。秘密保護法の項目もあります。海渡雄一報告。
国連自由権規約委員会は日本政府に何を求めたか
=死刑・代用監獄・慰安婦・秘密保護法・ヘイトスピーチ・技能実習生・福島原発事故=
海渡 雄一
(弁護士・日弁連自由権規約WG座長)
2 進まぬ国際人権保障システムの更新と克服の方向性―個人通報と国内人権機関― 2
2 秘密保護法は情報へのアクセスの権利を定めた規約19条を満たしていない 4
2 ジェンダーに基づく暴力及びドメスティック・バイオレンス 5
自由権規約委員会の総括所見が7月24日に公開され、かなりのメディアが断片的ではあるが、総括所見の内容や自由権規約委員会の審査について報じている。しかし、報道は細切れであり、この総括所見がどのような仕組みの元で、どのような審査を経て出されたものか、それが、日本政府と我々日本に住む外国人を含めた市民にとってどのような意味があるのか、正確に理解することは難しい。
私は、1993年の自由権規約委員会第3回審査の時から日弁連の担当委員会に所属している。実際に審査を傍聴し、ロビー活動を行ったのは、1998年第4回、2008年第3回に続いて3回目である。本論考では、これまでの経験を踏まえ、この制度の仕組みから審査の内容と委員会から発せられた総括所見のほとんどの条項を紹介し、その意味について考えてみたい。
自由権規約委員会の勧告には法的拘束力がないなどという報道が今も続いているが、委員会の指摘に政府が応えた例として、刑務所改革を上げることが許されるであろう。私は監獄人権センターというNGOの代表を務めているが、長く監獄内の人権状況の改善に取り組んできた立場から、刑務所改革は国際人権基準を国内で実現する過程であったと考える。1998年の時には、死刑や代用監獄の問題も取り上げられたが、刑務所における極めて厳しい所内規則、革手錠による虐待、独居拘禁などの問題が取り上げられた。2002年に発覚した名古屋刑務所事件が、刑務所制度の改革につながったのは、問題点が予め自由権規約委員会から指摘されていたにもかかわらず、複数の拷問死亡事件の発生を未然に防ぐことができなかったことを国会などで指摘され、当時の森山法務大臣自らが改革を決意せざるを得なくなったからであった。
行刑改革後も、国内の刑務所の人権問題が解決されたわけではない。適切な医療を速やかに受けることができないこと、今も数は減ってきているが独居拘禁の処遇の対象となっている者の数が2012年の段階で2000人を超えている。このように、改善の必要な点はいくつも指摘できる。しかし、今日本のすべての刑務所に弁護士や医師や地域住民、研究者などから構成される刑事施設視察委員会が活動している。この委員会は刑務所改革の最大の成果である。外部の目が入ることにより、虐待の危険性などは明らかに減少しているし、話し合いを通じて少しずつではあるが、施設内の処遇は改善されている。すべてとはいわないが、日本にも海外からの訪問客に是非見てもらいたいような進んだ社会復帰のための処遇を展開している施設もある。このような変化は、法務省矯正局が死刑確定者の処遇を除いて、自由権規約委員会の指摘を受け容れて改善に取り組んできたことの成果であると評価できるだろう。
国連人権条約にもとづいて自由権規約委員会、社会権規約委員会、拷問禁止委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会、人種差別撤廃委員会などの条約機関が条約ごとに作られている。これらの委員会は、国連の建物の中で開催されているが、厳密に言えば、国連の機関そのものではない。自由権規約委員会は、他の委員会との混同を避けるため、日本語ではこのように呼称されるが、条約機関の中では最も歴史が古く、またその英語名称がHuman Rights Committee(人権委員会)ということもあり、最も権威の高い条約機関である。委員は18名で、各国の最高裁の判事や国際法の研究者など高名な法律家が選ばれることが多い。日本からは岩澤雄司東京大学教授が委員に選出されている。
条約機関以外の国連の人権関係の機関としては、2005年にあらたに作られた人権理事会が総会の直接の下部機関として活動している。条約機関は個人の資格で活動する専門家で構成される。これに対して、人権理事会は同僚審査であり、専門家でなく、各国代表が審査の対象となっている国に人権状況の改善を求める。しかし、この時の基準となるのも、自由権規約委員会をはじめとする国連条約機関が行っている勧告なのである。このように、条約機関の審査と人権理事会はこのように分かちがたく結びつけられている。
人権理事会には課題別の特別報告者として、強制的失踪、略式処刑、拷問、宗教的不寛容、恣意的拘禁、児童、女性に対する暴力、司法の独立、表現の自由、健康などが取り上げられている。最近では、福島原発事故について積極的な現地調査を実施してくれた健康問題の特別報告者アナンダ・クローバー氏や秘密保護法について問題点を指摘してくれた表現の自由の特別報告者フランク・ラリュ氏らが著名である。自由権規約委員会の議長であるナイジェル・ロドリー卿は、長く拷問問題の特別報告者を務めた方である。
2014年7月15日、16日の両日にわたって、自由権規約委員会による第6回日本政府報告書審査がジュネーブの国連欧州本部パレデナシオンで行われた。私は、日弁連代表団の団長として、他の弁護士とともにジュネーブで委員会へのロビー活動に当たった。この審査を受けて7月24日に総括所見が公表されたので、その概要と特徴を報告したい。本報告中意見にわたる部分は私の個人的見解であり、日弁連の見解を代表するものではないことをお断りしておく。
今回の審査のためにほとんどの国内NGOがJapanNGONetworkIccpr2014を結成し、NGOブリーフィングを主催した。また、これらのNGOのほとんどが6月18日に日弁連が主催した政府との対話のための院内集会にも参加した。
後に詳述する秘密保護法(23)やヘイトスピーチ(12)、福島事故の問題(24)以外にもムスリムの人々に対する警察による包括的な情報収集について、人種的プロファイルは許されず、権力濫用についての効果的な救済を求める新しい勧告がなされている(20)。
委員会は、勧告5項において、1998年の第4回審査,2008年の第5回審査時の総括所見の多くが実施されていないことに懸念を表明し、過去の総括所見の実施を包括的に求めている。
また、刑事司法と少数者の差別は委員会の活動の核であるが、詳細に取り上げる刑事司法、死刑制度以外にも、難民(19)、入管収容(19)、技能実習生制度(16 委員会は、この制度そのものの改変を強く勧告している)などの外国人に対する人権問題、ジェンダー(8,9)、アイヌ・琉球(26)などのエスニックマイノリティ、ジェンダーに基づく暴力とDV(10)、LGBT・性的マイノリティに対する差別(11)、慰安婦問題(14)についての政府の責任なども引き続き取り上げられた。精神病院における非自発的入院の問題(17)、アイヌ・琉球の少数民族問題(26)も大きく取り上げられた。
他方で、委員会が一貫して取り上げてきた、第1選択議定書の批准、条約の国内法的効力、国内人権機関の設立など国際人権保障システムについても、かなり詳細な質問がなされ、具体的な勧告がなされた。
勧告6項は規約2条に基づいて、国内裁判所による条約上の権利の適用可能性について「締約国によって批准された条約が国内法的効果を持っていることを指摘しつつ、条約の下で守られるべき権利が裁判所では極めて限定されたケースでしか適用されていないことに注目する。」とし、「委員会は前回の勧告(CCPR / C / JPN / CO / 5、 para7)を再度引用し、締約国に条約の適用と解釈が、下級審も含めて、すべて弁護士、裁判官と検察官の職業訓練の一環となるよう、保証することを求める。 締約国は条約上の権利侵害の回復のために効果的な手段を保証するべきである。 締約国は個人通報制度を提供する選択議定書への加入を考慮すべきである。」と勧告した。
裁判官の研修や法律家になるための司法研修所で国際人権法は取り上げられているが、系統的な研修がなされているとは評価できない。研修の充実が望まれる。
続いて、勧告7項は、国内人権機関について、規約2条に基づいて「人権委員会法案の2012年11月の廃案以来、締約国が政府から独立した国内人権機関を創設するために何らの進展を見せていないのは遺憾である。」と最大級の失望感を表明した。そして、「委員会は前回勧告(CCPR / C / JPN / CO / 5、 para 9,)を想起し、締約国が幅広い権限をもち、適切な財政的ならびに人的資源を与えられ、パリ原則(総会決議48/134、附属書類)に適合する政府から独立した国内人権機関を設立することを再考するよう勧告する。」とした。
民主党政権の下で、第1選択議定書の批准、国内人権機関の設立の二つの課題については、政府としての取り組みがなされ、かなりの程度まで具体化していた。第1選択議定書の批准とは、日本国内で発生した人権問題について国内における裁判などが終了した後に、個人が申立人になって自由権規約委員会などの条約機関に通報し、委員会の見解を得るための手続である。第1選択議定書の批准については、外務省と法務省間の協議が完了し、批准のための実務的な詰めの段階に入っていた。
国内人権機関とは、人権保障を裁判だけで実現することは極めて困難であり、政府から独立した国内人権機関を設置するべきだという考え方が国連からも強く示されてきた。政府からの独立性について詳細に取り決めたものがパリ原則である。人事や権限、予算などのあらゆる面での政府からの独立性が求められている。
この問題については、さまざまな問題を指摘できる法案ではあったが、法務省が人権委員会法案を閣議決定し、国会に提案した。したがって、安倍政権となってからこのような国際人権保障システムの更新に向けた動きが止まっていることについて、外務省や法務省などによって構成された政府代表団は政治的な経過を報告することができず、明解な説明をすることができなかった。政治的な状況をあからさまに説明することは困難だったからであろう。このようなわかりにくい説明が、さらに委員会のフラストレーションを高めたようにも見受けられた。
このふたつの問題をどのように克服していくのか。第1選択議定書の批准は政権が決断さえすれば、実現できる。そんなに難しいことではない。世界中の115ヶ国が批准している。東欧や旧ソ連圏の国々はもちろん、日本の近隣国でもフィリピンは1989年に、韓国は1990年に、ロシアとモンゴル、ネパールは1991年に批准している。委員会に岩澤委員を派遣している日本が個人通報を認めていないことは、相当恥ずかしいことである。外交上の利害得失までを見通した政府の高いレベルでの判断が求められている。
国内人権機関については、安倍政権の下ではなかなか困難があるだろう。自民党が2012年の衆院選挙時に、党として民主党政権の下で閣議決定された人権委員会設置法案に反対するという方針を決めているからである。しかし、政権として国際社会からの働きかけを無視し続けることは国際的な信用にもかかわる。とりわけ、この問題は、2008年、2012年の国連人権理事会の場でも、日本政府はパリ原則に基づく国内人権機関の設立を公約しているのである。国際的な政府としての公約と国内政治上の方針が矛盾をきたし、膠着状況にあるといえる。この問題をどのようにして打開していくかは、極めて困難な課題ではあるが、自民党の中にも国内人権機関の設立に賛同する議員も存在している。知恵を絞り解決策を見いだしていく必要がある。
委員会が日本政府の対応を評価した点も存在する。
委員会は、政府の説明を踏まえ、人身取引防止の行動計画(2009)、男女共同参画基本計画(2010)、公営住宅法の改正(2010)、婚外子差別規定を改めた国籍法の改正と民法の改正(2008,2013)、強制失踪条約の批准(2009)と障がい者の権利条約の批准(2014)については、前向きの要素として評価している(3,4)。実は、婚外子の差別解消については長年にわたる委員会からの勧告が続いていた。2013年9月4日の最高裁違憲判決は、過去の自由権規約委員会の総括所見について言及している。
3月27日静岡地裁は袴田巌氏の再審開始を決定し、45年以上拘禁されていた袴田氏を死刑囚監房から釈放した。今回の委員会の審査の大きな特徴は、この袴田事件を題材に代用監獄、取調、死刑制度、死刑確定者の処遇などが大きなメインイシューになったことである。とりわけ3人の委員が袴田ケースに具体的に言及して発言した。
南アフリカのマジョディナ委員は、代用監獄の問題について、委員会は1988年から勧告していることを指摘し、30年も問題が提起されているのに政府の対応はなぜ変わらないのかと迫った。そして袴田さんが代用監獄で長期間の取調の結果自白させられた時と現状はどう変わったのか。長期の取調による自白の強要がなされていることに変わりはない。日本政府は、拘置所を増やし、人権違反を防ぐべきではないかと述べた。
アメリカのニューマン委員は死刑制度と死刑確定者の処遇について質問し、長期の独居拘禁によって精神の健康を害した袴田氏に言及した。死刑囚は長期に独房収容され、死刑執行は数時間前にしか知らされない。執行日時は家族にも知らされず、最後の別れも認められない。政府は「心の安寧を得るため。」というが、委員会はこの取扱は非人道的だと言ってきた。死刑判決を見直すために必ず再審査の機会を与えるべきではないか。裁判員制度の下で、全会一致でなくても死刑言い渡しが可能となっており、必ず再審査するべきではないか(裁判員制度の下では5対4の多数決で死刑判決が可能である)。心神喪失の者の処刑を避けるため、独立の審査システムがない等と指摘した。
イスラエルのシャニイ委員は取調の問題を包括的に取り上げた。取調の録画が義務化されるのは、裁判員対象の3パーセントが対象になると言うNGOの見解は正しいのか。身体的な暴力や言葉で脅すようなことはあるのか。弁護士はなぜ取調に立ち会えないのか。自白に依存することの危険性は学術的な調査によって示されている。プレッシャーがあると25-30パーセントの被疑者が自白を強要されていると言う報告がなされている。袴田ケースでは再審が開始されたという。そのことは、高く評価されるが、そのような人が他にもいるのではないかと述べた。
アルゼンチンのレスキア委員は、端的に日本政府に死刑を維持する理由について聞きたいと述べた。対象犯罪に19もの罪が上げられている。事前に処刑を知らせないことで死刑確定者の心の安静をはかるというが、それは国が決めるものではない。事前に通知を受けることで死刑確定者が、状況を把握できるようにするべきだと述べた。
このような審査を受け、委員会は勧告18項では、規約7条、9条、10条、14条にもとづいて、代用監獄については、政府が「利用可能なリソースが不足していることと犯罪捜査のためにこのシステムが効率的であること理由に代用監獄の使用を正当化し続けていることを遺憾に思う。」「起訴前に、保釈の権利が欠如し、国選弁護を受ける権利が保障されていないことが、代用監獄における強制的な自白を引き出してしまうリスク強めていることに依然として懸念をもっている。」「取調べの実施に関して厳しい規則が存在しないことに懸念を表明し、2014年「改革プラン」(2014年7月9日法制審議会新時代の刑事司法特別部会「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」のこと-翻訳者注)で提案されている取調べについてのビデオ録画が義務づけられた範囲が限られていることを遺憾に思う。」とし、「代替収容制度を廃止するか、さもなければ、規約9条と規約14条におけるすべての保障の完全な遵守を確実にすべきであり,それは特に次のことを保障することによって行うべきである。
(a)保釈などの勾留に代わる措置が、起訴前の勾留中にも十分に考慮されること。
(b)すべての被疑者が逮捕のときから弁護人の援助を受ける権利を保障され、弁護人が取調中に立ち会うこと。
(c)取調の継続時間及び方法に厳格な時間的制約を設定する立法措置,また、取調は完全にビデオ録画されるべきである。
(d)都道府県公安委員会から独立しており、迅速、公平かつ効果的に尋問中に行われた拷問や虐待の申し立てについて調査する権限を持つ不服審査メカニズム。」と勧告した。
代用監獄を廃止するか、起訴前の保釈、取調への弁護人の立会、取調期間の制限と全過程の録画、警察から独立した不服申立のメカニズムの導入するためあらゆる手段をとるべきであることが勧告されている。
委員会は、最近警察拘禁は48時間を限度とし、勾留決定後の拘禁施設は警察であってはならないことを内容とする規約9条の一般意見35の草案を作成し、公表し、意見を公募している1。今回の勧告は、国際社会は、法制審議会新時代の刑事司法特別部会で示されたような裁判員制度対象事件など一部の事件の取調の録画義務づけと国選弁護の範囲の拡大などを内容とする微温的な改革では、政府の対応として不十分であると考えていることを明らかに示している。
また、死刑制度については、勧告13項で、規約2条、6条、7条、9条及び14条にもとづいて、死刑を最も重大な犯罪に限るとの規約の要請を充たしていない,死刑確定者がいまだに死刑執行まで最長で40年の期間,昼夜間独居に置かれていること,死刑確定者もその家族も死刑執行の日以前に事前の告知を与えられていないこと,死刑確定者とその弁護士との面会の秘密性が保証されていないこと,死刑執行に直面する人が“心神喪失状態”にあるか否かに関する精神面の検査が独立していないこと,再審請求あるいは恩赦の請求に死刑執行を停止する効果がないこと、袴田巌の事件における場合を含め,強制された自白の結果として様々な機会に死刑が科されてきたという報告に懸念を表明した。そして、死刑の廃止を十分に考慮すること,死刑を科しうる犯罪の数を死の結果を含む最も重大な犯罪に減少させること、死刑確定者とその家族に執行の日を予め合理的な余裕をもって告知すること,原則として昼夜独居処遇を科さないこと,弁護側にすべての検察側資料への全面的なアクセスを保証し,拷問あるいは虐待により得られた自白が証拠として用いられることがないよう確保すること、死刑確定者の精神面の健康に関する独立した審査のメカニズムを確立すること、死刑の廃止を目指し,規約の第二選択議定書への加入を考慮するべきであるとする勧告を行った。
日本政府の死刑制度死守のための頑なな対応に対する委員会の不信といらだちは高まっている。このように具体的な勧告に対して、一歩でも二歩でも、日本政府とりわけ法務省刑事局の前向きの対応が切望される。
委員会は勧告22項において、公共の福祉を理由とする基本的人権の制限に言及し、「「公共の福祉」の概念はあいまいであり、無制限であるということ、そして、規約(2条、18条及び19条)の下で許容されるものを大きく超える制約を許容するかもしれないということへの懸念を改めて表明」し、「以前の最終所見(CCPR/C/JPN/CO/5, para.10)を想起し、第18、19条の第3段落における厳しい条件を満たさない限り、思想、良心、宗教の自由や表現の自由の権利に対するいかなる制約をも押し付けることを差し控えるように締約国に要求する。」とした。
このような見解は、これまで委員会が公職選挙法上の公務員の政治活動の制限や戸別訪問の禁止などが表現の自由に対する過度の制限となっていることを指摘していたことなどが背景となっている。また、委員会が19条だけでなく、18条にも言及した背景には、いくつかの市民グループが、学校における日の丸の掲揚、君が代斉唱に抵抗した教員に対する懲戒処分が、思想、良心、宗教の自由を侵害するものと指摘したことについても、考慮されたものと評価できるであろう。
秘密保護法については、日本のNGOは19団体のジョイントレポートを提出した。日弁連、アムネスティもこの問題を取り上げ、ツワネ原則を起草したオープンソサエティ・ジャスティスイニシアティブも、秘密保護法の内容を検討した詳細なレポートを提出した。このような動きを受けて、 審査の第二日目にドイツのフォー委員が表現の自由について質問する中で、秘密保護法について詳細に取り上げた。
日本政府はかなり準備していたようで、法全体の英訳を委員会に提供し、一部の答弁は英語で、今回の立法は欧米なみのものである、恣意的な運用はされない、報道目的の情報取得は処罰されないなどと流ちょうに回答した。
しかし、委員会は、勧告23項において、規約19条にもとづいて、「近年国会で採決された特定秘密保護法が、秘密指定の対象となる情報について曖昧かつ広汎に規定されている点、指定について抽象的要件しか規定されていない点、およびジャーナリストや人権活動家の活動に対し萎縮効果をもたらしかねない重い刑罰が規定されている点について懸念する」として、「日本政府は、特定秘密保護法とその運用が、自由権規約19条に定められる厳格な基準と合致することを確保するため、必要なあらゆる措置を取るべきである。」とし、「(a)特定秘密に指定されうる情報のカテゴリーが狭く定義されていること、また、情報を収集し、受取り、発信する権利に対する制約が、適法かつ必要最小限度であって、国家安全保障に対する明確かつ特定された脅威を予防するための必要性を備えたものであること。
(b)何人も、国家安全保障を害することのない真の公益に関する情報を拡散させたことによって罰せられないこと。」が具体的に勧告された。秘密指定には厳格な定義が必要であること、制約が必要最小限度のものでなければならないこと、ジャーナリストや人権活動家の公益のための活動が処罰からの除外されるべきことが求められた。勧告が公表されたのと同じ7月24日から秘密保護法の政令案と運用基準についてのパブコメが始まっているが、下位法令や運用基準レベルでの小手先の対応ではなく、法そのものの廃止を含めて抜本的な見直しがなされなければ国際社会の日本政府に対する言論弾圧の疑念は払拭できないであろう。
委員会は、勧告8項において、規約2条、3条、23条、及び26条にもとづいて「女性に離婚後6か月間の再婚を禁止し、男性と女性とで異なる婚姻最低年齢を設けている民法の差別的条項の修正を、婚姻制度や家族の基本的考え方に影響を及ぼしかねないことを理由に、締約国が継続して拒絶していること」に懸念を表明し、「家庭内及び社会における女性と男性の役割に関するステレオタイプが法の下の平等への女性の権利を侵害していることを正当化するために利用されないよう,保障すべきである。それゆえ,締約国は,これに従って民法の改正のための緊急の行動をとるべきである。
と勧告した。
また、委員会は、勧告9項において、規約2条、3条、及び26条にもとづいて「第三次男女共同参画基本計画の採択を歓迎する一方、政治的分野での女性の参画が乏しいという点を考慮して、上記計画の効果が限定的であることを懸念する。委員会は、意思決定の地位への、部落の女性を含むマイノリティ女性の参画についての情報が不足していること遺憾に思う。女性がパートタイムの仕事の70%を占め、同等の仕事をする男性が受け取る給与の58%しか稼げていないとの報告を懸念する。委員会は、また、セクシュアル・ハラスメント及び妊娠・出産による女性の解雇に対する罰則措置が欠如していること」に懸念を表明し、「第三次男女共同参画基本計画の進捗を効果的に監視及び評価をし,たとえば政党における成文でのクォータ制等,暫定的特別措置を採ることを含めて,公的分野での女性の参画を増加されるための迅速な行動をとるべきである。締約国は,部落の女性を含む,マイノリティの女性の政治的参加を評価し支援するための具体的な措置を採り,女性をフルタイムの労働者として採用することを促進し,男女の賃金格差を縮める努力を倍速させるべきである。また,締約国は,セクシュアル・ハラスメントを処罰し,妊娠・出産による不公正な取扱いを禁止し,適切なペナルティを伴う制裁をするよう,必要な立法的措置を講ずるべきである。」と勧告した。
委員会は、勧告10項において、規約3条、6条、7条、及び26条にもとづいて「前回の総括所見にも関わらず、締約国が、刑法での強姦の定義の範囲の拡大、性交同意年齢を13歳を超える年齢と設定すること、及び強姦罪や他の性犯罪を非親告罪とすることについて全く進展がないことについて遺憾に思う。また、委員会は、ドメスティック・バイオレンスが依然として蔓延しており、保護命令発令までの手続きに時間がかかりすぎ、及び、処罰された加害者の人数が非常に少ないという懸念を表明する。さらに、委員会は、同性カップル及び移住女性に不充分にしか保護が提供されていないという報告」に懸念を表明し、「前回の総括所見(CCPR/C/JPN/CO/5, paras 14 and 15)に従って,締約国は,第三次男女共同参画基本計画に記載されている通り,強姦やその他の性犯罪を告訴なしで起訴でき,遅滞なく性交同意年齢を引き上げ,性犯罪の構成要件を見直すための具体的な行動をとるべきである。締約国は、同性カップル間でのものも含めて、すべてのドメスティック・バイオレンスについての報告について、徹底的に捜査がなされ、加害者が訴追され、有罪になった場合には適正な制裁で処罰されることを確実にする努力を強化すべきである。また、締約国は、緊急保護命令を与えられることによって、及び、性暴力の被害者である移住女性が在留資格を喪失させないこと等によって、暴力の被害者がふさわしい保護を利用することができるよう、保障すべきである。」と勧告した。
委員会は、勧告11項において、規約2条・26条にもとづいて、「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルおよびトランスジェンダー(LGBT)の人々に対する社会的ハラスメントとスティグマの付与の報告について、また自治体が運営する住宅制度から同性カップルを実質的に排除している差別的規定について、懸念を表明し」、「すべての事由(性的指向およびジェンダーアイデンティティを含む)による差別を禁止する包括的な反差別法を採択するべきであり、また差別の被害者に対して効果的・適切な救済を提供するべきである。締約国は、LGBTの人々に対するステレオタイプや偏見と闘うための意識啓発活動を強化し、LGBTの人々に対するハラスメントの申立てを調査し、その防止のために適切な措置をとるべきである。また、自治体レベルで公的に運営されている住宅サービスとの関連で同性カップルに適用されている資格基準について、残されている制限も取り除くべきである。
と勧告した。
今回の委員会では、慰安婦問題は、これまでの審査以上に大きく取り上げられた。まず、マジョディナ委員が慰安婦問題を取り上げた。河野談話の検証についても質問がなされた。これに対する政府の回答は、これまでの経緯をふまえ、日本政府としては強制連行の事実は確認できないが、当時植民地統治下にあり、「甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して」なされたと述べた。そして、今後も河野談話を継承すると述べたが、アジア女性基金を超える慰藉措置は示されず、慰安婦を「性奴隷」と呼ぶことは相応しくないと繰り返し述べた。マジョディナ委員は再度性奴隷制という発言は1926年の奴隷廃止条約の定義に基づくと発言したのに対し、政府代表はさらに、「奴隷制度の定義について、条約上の検討をした上で、この制度は性奴隷制の問題ではない。その定義に当てはまるものとは理解していない。性奴隷制度は不適切な表現である」と強く反論した。
今回のセッションには、慰安婦は強制連行されておらず、売春婦だったと主張している日米の団体の人たち約10人が参加していた。セッションでも慰安婦が性奴隷ではないとした政府代表発言に一斉に拍手したり、慰安婦問題について発言したマジョディナ委員をセッションの終了後に取り囲んで糾弾するという事件が起きた。これに対して、ロドリー議長は本稿末尾にも紹介したように、総括発言の中で代用監獄とともに慰安婦問題を「変わらない日本」を象徴する問題として取り上げた。そして、このような行為(慰安婦を性奴隷ではないとする発言に拍手する)ことは、許されない行為であると言明した。
このような緊迫したやりとりを背景に委員会は、勧告14項で、規約2条、7条、8条にもとづいて「委員会は、戦時中の「慰安婦」は日本軍によって「強制的に連行」されたのではないとしつつ、慰安所の女性たちの「募集、移送、管理」は、多くの場合、軍や軍のために動いた組織によって、強圧や脅迫など一般的に意思に反して行われたとの、締約国の矛盾する立場に懸念を表明する。委員会は、被害者の意思に反して行われたどのような行動も、締約国の直接的な法的責任を伴う人権侵害だと捉えるに十分であると考える。」としている。
そして、「戦時中、「慰安婦」に対して日本軍が行った性奴隷あるいはその他の人権侵害に対するすべての申し立ては、効果的かつ独立、公平に捜査され、加害者は訴追され、有罪であるとわかれば処罰すること。」「司法へのアクセスおよび被害者とその家族への完全な被害回復措置」「利用可能なすべての証拠の公開」「教科書への十分な記述を含む、学生と一般の人々へのこの問題に関する教育」「公式な謝罪を表明することおよび締約国の責任の公的認知」「被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての企みへの非難
のためあらゆる措置をとるべきことが勧告された。
ヘイトスピーチについて、イスラエルのシャニイ委員が取り上げた。「韓国人を殺せ」などと叫ぶデモが全国で350件も報告され、広範に起きていることが委員会の場でも確認された。
政府の答弁は特定の人や集団への名誉毀損や脅迫にあたる場合に民事責任と刑事責任を問いうる、一般的なヘイトスピーチに関しては、啓発活動に取り組んでいるという答弁に終始した。このやりとりを通じて、日本に包括的な差別禁止法制がなく、ヘイトスピーチを禁止できていないことの問題点が明確になった。
二日目のフォローアップ質問において、シャニイ委員は表現の自由の保障は重要であるとしつつ、規約20条がバイオレンスの防止のため、人種差別の煽動をするようなヘイトスピーチは抑制しなければならないことを定めていると指摘し、民事法的な措置だけに委ねると民事提訴ができない場合もあり、国が抑制することが望ましいと述べた。
人種差別撤廃委員会の前記の見解は、法律により処罰されうる流布や扇動の条件として、委員会は以下の文脈的要素が考慮されるべきであると考えるとして、スピーチの内容と形態、経済的、社会的および政治的風潮(委員会は、ジェノサイドに関する指標において、人種主義的ヘイトスピーチの意味および潜在的効果を評価する際に地域性が関連することを強調した)、発言者の立場または地位、スピーチの範囲、スピーチの目的を考慮すべきだとしている。
また、締約国は、扇動罪の重要な要素として上記の考慮事項に加えて、発言者の意図、そして発言者により望まれまたは意図された行為がそのスピーチにより生じる差し迫った危険または蓋然性を考慮に入れるべきであるとされている。
日本の状況は、放置すれば、人種差別的暴力への歯止めが利かなくなる一歩手前まで来ている。委員会は、勧告12項において、規約2条、19条、20条、27条にもとづいて「朝鮮・韓国人、中国人および部落民などのマイノリティグループの構成員への憎悪および差別を扇動している広範囲に及ぶ人種主義的言説と、これら行為に対する刑法および民法上の保護の不十分さに懸念を表明する。委員会はまた、頻繁に行われている許可を受けた極端論者のデモ、外国人の生徒・学生を含むマイノリティに対する嫌がらせと暴力、並びに民間の施設や建物での“ジャパニーズ・オンリー(日本人以外お断り)”などの看板・貼り紙の公けの表示について懸念を表明」し、「締約国は、差別、敵意あるいは暴力の扇動となる人種的優越あるいは憎悪を唱える宣伝のすべてを禁止し、そのような宣伝を広めるためのデモを禁止するべきである。締約国はまた、人種主義に対する意識高揚活動のために十分な資源を割り当て、裁判官、検事および警察官が、ヘイトクライムや人種主義的動機による犯罪を見つける力をつける訓練を確実に受けるよう取り組みを強化するべきである。締約国はまた、人種主義者の攻撃を防止し、加害者とされる者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合は適切な制裁をもって処罰されることを保証するためにすべての必要な措置をとるべきである。」と勧告した。
これは、明確にヘイトスピーチそのものの刑事的規制を求めた勧告である。表現の自由を保障しつつ、ヘイトスピーチに効果的な規制を行うことは難しい作業である。実は、日弁連もヘイトスピーチに対して、これを強く非難する意見を表明しているが、刑事法的規制が必要であるという意見をまとめるに至っていない。しかし、日本の現状は戦争とジェノサイドの危険が切迫しているものと認識しなければならない。政府も、われわれNGOも、この難問に取り組むべき時機が来ているのではないだろうか。
委員会は、勧告15,16項の二つの項目で、人身取引に言及した。
まず、15項では、規約8条にもとづいて「委員会は、締約国の人身取引への取り組みを評価しつつ、人身取引がなかなか根絶されないこと、また、加害者に懲役刑が科される件数が少ないこと、強制労働が処罰される事案がないこと、被害者認定が減少していること、および被害者に提供される支援が不十分であることを懸念する。」として、日本政府は、下記の行動をすべきであるとして、「特に強制労働の被害者について、被害者認定手続きを強化し、労働基準監督官を含むすべての法執行者に対して専門訓練を提供すべきである。」「加害者を精力的に捜査及び訴追すべきであり、有罪になった場合には、人身取引行為の深刻さに見合う刑罰を科すべきである。」「通訳サービス及び損害賠償のための法的支援を含む、現行の被害者保護の措置を強化すべきである。」としている。
また、技能実習制度について、16項では、規約2条、8条に基づいて「外国人技能実習生に対する労働法制の保護を拡充した制度改正にもかかわらず、同制度の下で性的搾取、労働に関係する死亡、強制労働に達しうる状況に関する報告が多く存在することに、委員会は懸念とともに指摘する。」とし、「現在の制度を低賃金労働者の雇用よりも能力開発に焦点を置く新しい制度に代えることを真剣に検討すべきである(strongly consider)。他方で締約国は、事業場への立ち入り調査の回数を増やし、独立した苦情申し立て機能を設置し、労働搾取の人身売買その他労働法違反事案を効果的に調査し、起訴し、制裁を科すべきである。」とした。
勧告の根拠とされている規約8条は奴隷制と強制労働を禁止している条項である。最低賃金以下で働き、多くの実習生が健康を害し、自殺や過労死を引きおこしている状況を国際社会はこのような深刻な問題と捉えている。政府は実習生制度を、人権侵害も生じないよう配慮し不適切な団体も排除しつつむしろ拡大するとしている。このような政策は抜本的に見直さなければならない。この項目も一年内のフォローアップ事項に選ばれた。自由権委員会の厳しい視線に応えなければならない。
勧告19項では、規約2条,7条,9条,13条にもとづいて「委員会は、2010年に一人の死を生じさせた退去強制手続き中の虐待ケースについて懸念を表明する。委員会は、また出入国管理難民認定法の改正にもかかわらず、ノンルフールマンの原則が実務において十分に実施されていない点について懸念を表明する。委員会は、難民についての否定的な決定に対する停止の効果を伴った独立した異議手続の制度の欠如と正当な理由もなくかつ収容決定に対する独立した再審査もないまま行政収容が長期化されていることにさらなる懸念を表明する。」としたうえで、「退去強制の過程において移民が虐待にさらされないようにするためのあらゆる適切な措置を講じること」「国際的な保護を求めている全ての人が、公正な決定手続きへのアクセスと危険が待ち受けている地域へ送還されないよう保護を受けられること、また否定的な決定に対し執行停止の効果を伴った独立した異議手続きへのアクセス持つことを保障すること」「収容が最短の適切な期間となりかつ行政収容に対する既存の代替措置が十分に考慮された場合にのみ行われることを確保する手段を取ること、そして移民が自らの収容についての合法性について審査する裁判所に対し訴えを提起できることを保障する手続きを取ること」が勧告された。
今回の審査では、ムスリムに対する監視の問題が、ムスリム弁護団によって新たに提起された。委員会は、勧告20項において、規約2条、17条、26条にもとづいて、「警察職員によるムスリムに対する広範な監視活動が報告されていること
に、懸念を表明し、「警察職員に対し、異文化の理解、及び、警察職員によるムスリムへの広範な監視活動を含む人種的プロファイリングが許容されないことについて、トレーニングを実施すべきである。」「権力が濫用された場合には、影響を受けた人々に対する効果的な救済手段へのアクセスを確保すべきである。」と勧告した。
この事件は、公安警察による市民に対する監視活動の氷山の一角が警察情報の漏えいというかたちで明らかになった事件であるが、このような情報の漏えいは、秘密保護法の下ではテロ対策を理由に、厳しく秘匿されることとなるだろう。国内でも、この問題は国家賠償訴訟が提起されているが、裁判所は漏えいについては責任を認めたが、包括的な情報収集そのものの違法性を認めていない。今回の勧告は、包括的な情報収集そのものが規約と両立しないことを指摘したもので、画期的な勧告と評価できる。
委員会は、勧告17項において、規約7条と9条にもとづいて「非常に多くの精神障害者が非常に長期間、そして自らの権利侵害に異議申し立てする有効な法的な救済手段なしに非自発的入院を強いられていること、また代替サービスの欠如により入院が不要に長期化していると報告されていること」に懸念を表明した。そして、「精神障害者に対して地域に基盤のある代替のサービスを増やすこと」「強制入院は、最後の手段としてのみ必要最小限の期間、本人の受ける害から本人を守りあるいは他害を避けることを目的として必要で均衡が取れる時にのみ行われることを確保すること」「精神科の施設に対して、虐待を有効に捜査し罰し、被害者またはその家族に賠償を提供することを目的として、有効で独立した監視と報告体制を確保すること」が勧告された。精神障害者に対して社会内における治療と処遇を原則とする考え方が世界中に広まっている。
委員会の質疑においても、日本の学校や家庭において、体罰が広範に用いられており、また世論調査などでも体罰を容認する考えが存在していることが指摘された。委員会は、勧告25項において、規約7条、24条にもとづいて、「体罰が学校では禁止されているものの、これが広がり、社会的にも受け容れられていると認められる」として、「適切な場合は立法手段を通じて、あらゆる場面で体罰をやめさせるため実務的な措置をとるべきである。体罰に代わる非暴力的な懲戒手段を導入することが望まれる。そして、体罰のもたらす心身を傷つける効果について、情報を提供するパブリックキャンペーンを実施するべきである。」と勧告した。
委員会は勧告26項において、規約27条に基づいて「アイヌ民族を先住民族として認めたことを歓迎する一方で、委員会は、琉球・沖縄の認識の欠如並びにこれら集団の伝統的土地と資源の権利あるいはその子どもたちが独自の言語で教育を受ける権利の認識の欠如に関する懸念を繰り返す。」とし、「締約国は、法律を改正して、アイヌおよび琉球・沖縄のコミュニティの伝統的土地と自然資源への権利を全面的に保障するようさらなる措置をとり、これら人びとに影響を及ぼす政策およびその子どもたちが独自の言語で教育をうけることを可能な範囲で促進する政策に、自由に事前にそして情報を得た上で参加できる権利の尊重を保証するべきである。」とした。
スイスのケリン委員が、福島原発後の状況に懸念があるとして、特別報告者(アナンダ・グローバー氏)のレポートを取り上げ、国際基準(年間1ミリシーベルト)の20倍の線量地域に帰還政策がとられていること、帰還した者に月次の補償がなされるのか、避難している人々にどの程度の情報が提供されているのかなどの質問がなされた。委員会は、勧告24項では、規約6条、12条、19条にもとづいて、「福島に許容する公衆の被ばく限度が高いこと、数か所の避難区域が解除され、人々が放射能で高度に汚染された地域に帰還するしか選択肢がない状況に置かれていること」に懸念が表明された。そして、「福島原発事故の影響を受けた人々の生命を保護するために必要なすべての措置を講ずるべきであり、放射線のレベルが住民にリスクをもたらさないといえる場合でない限り、避難区域の指定を解除すべきでない。」「放射線量のレベルをモニタリングし、こうした情報を時機にかなった方法で、原発事故の影響を受けている人々に提供すべきである。」と勧告した。
委員会は、福島原発事故の被害者が置かれた状況が生命の権利を保障した規約6条、規約12条、市民の知る権利を保障した規約19条が十分保障されていない事態であると見なしているのである。
2012年に子ども被災者支援法が制定され、低レベル放射線被曝の健康影響が明らかでないという認識に立って、滞在と避難、帰還の選択肢を等しく支援することが法定されたにもかかわらず、政府は明らかに帰還優先の政策を強行してきた。このような政府の方針が生命・健康に対する権利と知る権利の侵害として断罪されたのである。政府は直ちに帰還促進政策を見直さなければならない。
ナイジェルロドリー議長は会議の結びの言葉の中で、触れるべき二つの問題があるとして、日本政府が何度も同じプロセスを繰り返しているという点を指摘した。
代用監獄制度に関して、政府はリソースの不足を制度を改めない理由として述べたが、議長は、「人権の尊重がリソース次第という状況は日本のような先進国ではあってはならないことであると指摘した。こういう制度が維持されている理由は、起訴側が自白を求めたいと考えているためであるとしか考えられない。このような状況は明らかに規約に矛盾している。日本政府は、委員会がこれまでよりも強い形で勧告を出しても驚かれることはないでしょう。日本政府は明らかに国際コミュニティに抵抗しているようにみえます。」と述べた。繰り返されているもう一つの重要問題として慰安婦の問題が指摘された。議長は、「意見の対立があるようであるが私には理解ができない。私の頭が悪いのだろうか。「強制連行されたのではない。」といいつつ、「意図に反した」という認識が示されている。これは、理解しにくい。性奴隷である疑念があるなら、日本政府はなぜこの問題を国際的な審査によって明確化しないのか。」と厳しく指摘した。
委員会は、勧告27項において、締約国の第6 回定期報告書と委員会の総括所見、そして委員会のリストオブイシューズに対して政府が行った書面回答などが、一般市民に対し、また、司法、立法、行政当局に対しても公表され、かつ、広く普及されるよう求めた。
また、委員会は、勧告29項において、日本の第6 回定期報告書の提出日を、2018 年7 月31 日と定め、この勧告に対してとった措置を、市民社会との共同作業を経て提出するように求めた。
委員会は、28項で、1年以内のフォローアップ事項として、死刑(13),慰安婦(14),技能実習生(16),代用監獄(18)の4テーマを取り上げ、委員会手続規則71 パラグラフ5 に従い、この4つの勧告について、1 年以内にフォローアップ情報を提供するよう求めた。これら4つの項目は、委員会がとりわけ重視している関心のあらわれである。とりわけ政府の集中した誠実な対応が求められる。
今回の勧告は、これまでの5回の審査に基づく勧告と比べて、極めて厳しいトーンと内容のものとなった。その原因は明確である。世界中の国々が、人権の完全実施のために前向きの努力を続けている中で、日本では、人権とさらには民主主義そのものを危機に陥れるようなできごとが続いている。いわば、改善の方向が見えないだけでなく、むしろ後退している印象を与えたのだと推察する。
とはいえ、私たち日本のNGOは政府と協力して、この勧告を一つずつ実現していく責務がある。私が歩みを止めず、大きな流れの中で捉えれば、これらの勧告はいずれ実現できる。しかし、民主主義的な法制度を傷つけたり、日本政府が戦争に突き進むようなことになれば、その回復には長い時間がかかるかもしれない。
そのような破局的な事態を避けるためにも、この勧告の中の秘密保護法を含む表現の自由とヘイトスピーチを含む人種差別禁止などの勧告を重く受け止め、この勧告を速やかに実現する必要があるだろう。
総括所見を日本国内にひろげ、政府と真剣に対話し、日本を包む人権と民主主義の危機を克服していくための梃子として活用したいと思う。
1 Revised draft prepared by the Rapporteur for general comment No. 35, Mr. Gerald L. Neuman
パラ33.「速やかに」の的確な意味は様々な客観的状況に依るものであるが,拘束時から数日を超えるべきではない。当委員会は,移送とjudicial hearingの準備に必要な時間は48時間で十分と考える。48時間以上の遅れは,絶対的例外であるし,一定の状況下でしか認められない。法的制限のない強制的な長期の抑留は,不必要に違法な取り扱いの危険性を高める。多くの締約国の法律では,具体的な時間制限,しばしば48時間より短時間で,を設けており,これらを超えるべきではない。青少年については,24時間以内といった,より厳しい時間制限が設けられるべきである。
パラ36.当該人物が裁判官の前に連れてこられたら,裁判官は,当該個人が解放されるべきか,あるいは追加的な取り調べ又は裁判を待つために抑留を継続するべきかを決定しなければならない。抑留を継続する法的根拠がなければ,裁判官は解放を命じなければならない。追加的な取り調べや裁判が認められたら,裁判官は,当該個人が,条件付き又は無条件で解放されるべきかどうかを決しなければならない。当委員会は,再抑留は,警察留置場への送還ではなく,被抑留者の権利制限が容易に緩和される,他の機関が所管する別の施設においてなされるべきと考える。